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耐久消費財はイニシャルコストではなくランニングコストだという見方もあるかもしれないが、しかしそれでも日本における外国車の価格というのは高過ぎると感じる。尤も、国内へ入ってくるものの多くはハイグレード仕様を標準グレード扱いとして売っているものも少なくはないし、張りたくもない見栄を張らなければご商売に格好のつかないビジネスパーソンにとって、若しくは今の時代であっても車は成功のステータスというやや古い価値観をお持ちの方にとっては、現在の自動車の価格設定の大枠は概ねこれで良いといった具合なのかもしれないが。ここらへんは、外国車好きにとっての本音として本国で一番安いグレードのを売ってよと思っているところだろうし。でもまぁこれはこれでまた別のお話。
数十年に亘って外国車好きを通してきた身としては、どうにも国産車への眼差しは鋭さに欠け、勝手な思い込みによって半ばどうでもいい項目としてフィルタリングされていた。しかしここへきてマツダは新しい顔を持ち、三菱は硬派を貫きながらも少しずつ光を見いだしているふうに見えるし、超安定飛行のトヨタにしろ、最近はスランプ気味のホンダにせよ、実際に車を見てみるとなるほど進化しているのねと再発見できる部分は少なからずある。
それらを頭に残しつつこの車を見れば、2WD版の278万7750円、4WD版の299万7750円というのは、いやもうすんごく良心的。ではないだろうか。機械の信頼性も申し分無く、日常の足としてガシガシ乗ってレギュラーガソリンをゴクゴク飲ませてもそんなに燃費が悪い方でもないとすれば、セダンの購入を考えている方にとっては、充分に購入候補に挙がるはず。

都内にいくつかある、自動車ウォッチをする場所でいつもながらに変わらぬ風景が流れる中、目に留まったのがこの車であった。適度なボリューム感がありながらコンパクトに引き締まった姿。国内では同じセグメントのBMW3あたりと並ぶものの、ほんの僅かに幅広く、長い。

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見た目としてはエッヂを控えめにしたらしい。その効果は多いにあって、パッと見は丸っこい印象があるものの、だからといって可愛らしいフォルムなわけでもない。スズキが世界市場を含めてフラッグシップモデルだと謳うだけある姿を持っている。フロントサイドのウィンカーなんかは、もう少しシャレてても良い気はする。前後のフェンダーの処理も現状ではやや没個性的か。しかしボディサイド全体はまとまりがあって、これはひとつの完成形なのだろう。

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車内の様子は、シートや内張りといった類いのものは後からいくらでも改良できるとはいえ凡庸でもあり、もの凄く感動するわけでも、もの凄く落胆するわけでもないあたり、広く受け入れられる仕立てを目指したのかもしれない。センターコンソールは、そつの無いレイアウトだが操作性は良さそう。助手席側のダッシュボード周りはオシャレポイントを作りやすいのに、これではややビジネスライクで、もうちょっと味付けが欲しい。ステアリングホイールは形こそ悪くない。ただ、ロゴの"S"の大きさが、ホイールとのマッチングからしてもう少し大きくてもいいのではないか。スズキのこの"S"は、なかなか良いデザインでもあるので、三菱みたいにド〜ンと配置したらドライバーとして満足感が高まったり...するかもしれない。

kizashi_3SX-4でも感じたが、キザシもなかなかに良い顔立ち。グリルの網目も工夫があって面白い。ここをよくある横のラインだけにしたり、あるいは縦にしたりしてもきっと締まらない。鎖帷子の様なイメージ。エンジンフード先端から下部へ滑らかに弧を描くフロントセクションは、執拗に威圧感を与える、言うなれば品の無いものよりかはずっと良い。全体的に漂う品が、キザシのハイライトか。
仕事のできそうなビジネスパーソンにも、個人的な趣味としてセダンに乗りたい人にとっても、ちょっとそこまでお買い物に...の奥様であってもこの車はピタッとハマる要素がある。その要素は車全体に散りばめられて、匂いというか雰囲気によって醸し出されているように感じるけれど、おそらく最も重要な要素は、軽自動車で定評のあるあのスズキが出してる本格セダン。というブランド的なものかもしれない。

kizashi_4フォルクスワーゲンのパサートが直接のライバルらしい。けれど、こちらはガッチリとドイツ車っといった面持ちでもあり、いざ実際に買おうか迷う時に両者が俎上に...とはならないのではないか。それよりも、国産車のセダンという枠内で考えてみれば、キザシの魅力をグッと感じられるように思う。駆動形式やエンジン形式で絞り込んでしまえばおのずと選択肢は限られるものの、あくまでセダンとして捉えていくと、一般的なイメージ、例えばトヨタのマークX等だけがセダンなのではないと気づくだろう。

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左はコンセプトモデル。

う〜んここまで良かったのにまたもやケツで息切れしてしまう。まぁ本当に惜しいのはケツ。市販化するにあたって、どうしても安全面やらなんやらで解決しなければいけない部分はあるだろうにしても、これ、コンセプトモデルで完成しているじゃないかと言いたい。Cピラーからバンパーにかけてはコンセプトモデルの方が美しい。マフラーはここまでゴツい必要はないし、市販モデルの造形の方がミニマルで良いけれど、やや魅力ダウンだろう。

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斜め後方からのアプローチとしては、もちろんまとまりはある。バンパーが目立ってしまうのは仕方ない。ただ、テールライト下あたりをちょっと絞ったシェイプにして変化を持たせたり、ナンバープレートのある付近にやや造形的な工夫あるいはアレンジといったものがあれば、ここからさらに美しくなるのではないか。フロントセクションからリアへの流れは基本的には水平を保ったラインであり、高速道路を安定感を保って悠々と巡航している姿が思い浮かぶ。

メカにはほとんど触れる気のない当ブログとしては、本来積極的にツッコミを入れる部分ではないが、それにしても国内版にMT仕様が無いのは実にもったいない。CVTは昔に比べて随分と進化したことを考えれば、トルクコンバーターATを必ずしも用意しなくても良いだろう。しかし実用的でややスポーティーな(スポーツ仕様は別に存在するけれど…)セダンなら、あるいはドイツ製のセダンなんかと肩を並べるのならば、ここはクラッチペダルを蹴らせてよねと言いたい。いざとなれば個人的に輸入すればいいのだけれど、トランスミッションの形式だけの為に、国産メーカーの車を外国から輸入するというのもなんだかなぁと思ってしまう。

彼らの言う"兆し"とは結局何の兆しなのかを明確に見通すところまではきていないが、既存のイメージからの脱却や新しいビジョンあるいは展望といったところに於いての兆しであるならば、既にこの車の存在が、これから先のスズキを示しているのではないか。もっともっと胸を張って多少急いででも新たな世界へ移行してほしい。ごくごく現実的な視野に立ってリーズナブルなセダンに乗ろうとするならば、プリウスという別次元のライバルは置いておいても、それ以外のライバル達を見れば、リストの一番上へもってきても何ら不足はない。むしろ、賢い選択ではないだろうか。


掲載の画像は、netcarshow.comよりお借りしています。

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